若手や新人に、昔の職場環境の話をしても仕方がない
これまでの職場で必ず一回は聞いてきた「君たちは恵まれているんだから頑張りなさい」という言葉。
大抵、先輩が自分の苦労話をしたあとなんかにするものです。
「昔はひどかった。今よりも怖い先輩がいて、労働時間も長くて、それでも俺は頑張ってきたんだ。それに比べたら、お前らはなんなんだ。もっと頑張れよ」。言葉の裏にはそんな意味合いが込められているような気がしてなりません。
鬼軍曹のような先輩にしごかれ、毎日深夜まで残業してきたのだとしたら確かにそれはすごいことです。ただ、以前はそんな職場環境で今は違うというのであれば、それはすなわち、働きにくい環境が改善されたわけです。しかし、改善される前のことなんて若手や新人は、先輩の話を聞いて知ったつもりにはなれても実際のことなんてわかりません。むしろ、「そんな劣悪な職場環境だったのか! うちの会社はブラックだ!」なんて思われるかもしれません。
つまり、若手や新人には今の職場の環境が全てです。それはすなわち、以前の働きにくい職場環境から改善された職場です。
職場環境の改善を技術の進化に例えてみましょう。昔は服を洗濯するのに洗濯板を使っていましたが、今では洗濯機を使うのが当たり前になっています。私の祖母なんかは洗濯板を使っていた世代なので、洗濯機のことを大変便利だと思っています。
私が洗濯機を回すのが面倒くさいと言おうものならば、「昔はね、こんな便利な機械がなくて、洗濯板で洗濯していたんだよ」と言うでしょう。そして、私は昔の人は大変だったんだなと思うでしょう。しかし、だからといって「よし、洗濯機を使って洗濯頑張るか!」なんて思うことはありません。私に限らず多くの人がそうでしょう。
また、結婚相手の探し方でも例えてみましょう。昔はお見合い結婚が主流でしたが、今は恋愛結婚が主流です。ここでまた私の祖母の登場です。祖母はお見合い結婚でした。
祖母は姑や夫(私の祖父)のひどいイジメにあいましたが、耐えて耐えて離婚することはありませんでした。だからこそ、恋愛結婚した夫婦がすぐに離婚した話を聞くと「私のときは好きな人と結婚するなんてできなかった。好きで結婚したはずなのに今どきの人は忍耐力がない」なんて言います。ですが、だからといって私が「好きな人と結婚できるように恋愛を頑張ろう!」とか「結婚したら何が何でも離婚なんてしない」なんて思うことはありません。草食系なんて言葉もあるし、やっぱり離婚する人は離婚します。
何が言いたいかというと職場環境が改善されているから「お前ら頑張れよ!」と言うのは、「洗濯機があるんだから洗濯しっかりやれ!」「恋愛結婚が主流なんだから、好きな人見つけて早く結婚しろよ!」と言ってるのと本質的には変わらないということです。
そもそも頑張るのはその人次第
先輩たちが苦労してきたんだから、自分も頑張ろうなんて思う人はなかなかいないと思います。また、職場環境が昔に比べて改善されているのだから頑張ろうと思う人もいないでしょう。つまるところ、若手や新人にとって昔の職場環境なんてどうでもよくて、今の職場環境が全てだからです。
そもそも頑張るのはその人次第。もっと言えば、頑張るのか頑張らないのかを選ぶのもその人次第です。
「俺は営業成績を伸ばして昇級してガンガン稼ぐんだ!」という人もいれば、「家族と過ごしたり趣味を楽しんだりしたいから仕事はほどほどでいいや」という人もいるはずです。昔は違ったでしょうけど、今はそういう価値観が生まれてきているのです。
にも関わらず、「昔、俺たちは苦労したんだから、お前らも苦労しろよ」みたいな体育会系の因習を押しつけるような発言はナンセンスです。「昔はひどかった」から始まる苦労話には、もしかしたら面白い話や参考になる話があるかもしれません。ですが、だからと言って「じゃあ、お前らも頑張れよ」というのは無意味というか意味不明だと思うのです。
「君たちは恵まれているんだから頑張りなさい」。この言葉には、改善された職場環境で働く若手や新人に対する先輩社員の嫉妬の念すら感じてしまうのです。
それでは、今日はこのへんで!